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口座凍結後に葬儀費用を引き出す方法:民法第909条の2の仮払い制度を正確に使う

口座凍結後に葬儀費用を引き出す方法:民法第909条の2の仮払い制度を正確に使う

親が亡くなった翌日、葬儀社から見積書が届いた。支払いのために銀行ATMに向かったが、「この口座は凍結されています」と表示が出て引き出せなかった——こうした状況は決して珍しくない。しかし多くの人が誤解しているのが、「死亡の事実が戸籍に反映される前に急いで引き出せばいい」という判断だ。これは後に相続放棄を封じる深刻な法的リスクをはらんでいる。法律が用意した正規の手段、すなわち「遺産分割前の預貯金仮払い制度」を正確に理解して使うことが、唯一の安全な解決策だ。

口座はいつ、どのような経緯で凍結されるか

銀行が口座を凍結するのは、「死亡の事実を知った時点」だ。法律上の義務ではなく、銀行の自己防衛措置として実施される。凍結のトリガーとなる主な経緯は以下の三つだ。

第一に、遺族が「死亡しました」と銀行に連絡した場合。葬儀費用の相談や手続きのつもりで電話すると、その瞬間に口座が凍結される。

第二に、銀行が死亡の事実をニュースや公的書類から知った場合。著名人や経営者など一部のケースを除き、一般人の死亡を銀行が自発的に把握することは通常ない。

第三に、相続人が口座解約の手続きに来た場合。手続きの過程で死亡の事実が判明し、その時点で凍結と解約手続きが並行して進む。

凍結されると、ATMでの引き出し、公共料金の自動引き落とし、年金の入金受け取り(翌月の振り込みは一時的に保留される場合がある)のすべてが停止する。逆に言えば、銀行が知る前は口座が使える状態にある。だからといって、急いで引き出すことには重大なリスクがある。

「急いで引き出す」行為が相続放棄を封じる理由

死亡直後に故人の口座からまとまった現金を引き出して消費した場合、民法第921条第1号の「相続財産の処分」に該当するとみなされる可能性がある。これが「単純承認の擬制」だ。

単純承認が擬制されると、後から多額の借金が発覚しても相続放棄ができなくなる。引き出した段階では「葬儀費用のため」と思っていても、家庭裁判所はその使途ではなく「処分行為があった事実」を重視する。

判例(大阪高裁平成14年7月3日決定)は、社会通念上相当な葬儀費用の支払いは「処分」に当たらないとしているが、その「相当な範囲」の立証は容易ではない。領収書がなければ「葬儀費用に使った」という主張は通らない。

相続放棄を検討している場合、あるいは親に借金がある可能性がある場合は、凍結前の引き出しは絶対に避けるべきだ。

民法第909条の2:仮払い制度の計算式と上限

2019年7月に施行された改正民法により、遺産分割協議が成立する前であっても、各相続人が単独で一定額の預金を引き出せる権利が法的に保障された。

計算式

単独払戻可能額 = 相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 払戻しを求める相続人の法定相続分

ただし、同一の金融機関からの仮払い上限は150万円(法務省令)。複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれの金融機関ごとに上限150万円が適用される。

具体的な計算例

A銀行に600万円の残高があり、相続人が配偶者(法定相続分1/2)、長男(1/4)、長女(1/4)の3名の場合:

  • 配偶者:600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円(150万円以下なので全額引き出せる)
  • 長男:600万円 × 1/3 × 1/4 = 50万円(同上)

B銀行に1,200万円の残高がある場合(相続人:配偶者と長男の2名、各1/2):

  • 長男:1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 → 上限150万円が適用されるため150万円

この150万円の上限は金融機関単位なので、3行に口座があれば理論上最大450万円まで単独で引き出すことができる。

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銀行窓口で必要な5大書類

仮払い制度を利用する際、銀行窓口では通常以下の書類の提出を求められる。事前に揃えておかないと、複数回窓口に通うことになる。

  1. 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(除籍謄本)——死亡の事実を証明するもの。
  2. 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本——すべての相続人を特定するために必要。令和6年3月から始まった「戸籍の広域交付制度」を活用すれば、最寄りの役所で一括取得できる(直系親族本人が窓口に出向く必要あり)。
  3. 請求する相続人自身の現在の戸籍謄本——相続人であることの証明。
  4. 請求する相続人の印鑑証明書
  5. 実印

一部の銀行では、相続人全員の戸籍謄本や同意書を追加で求めるケースもある。事前に口座がある銀行の相続センターに電話して必要書類を確認しておくことを勧める。

引き出した現金の使途管理と領収書保管

仮払いで引き出した現金は、その使途が重要だ。「合理的な葬儀費用」および「被相続人の未払医療費」に限定して使い、絶対に自己の生活費や個人的な支払いに充ててはならない。後に相続放棄や相続税申告の際に問題になるリスクがある。

使途の管理方法として、引き出した現金は個人の銀行口座に振り込まず手持ち現金として管理し、1円単位の原本領収書(宛名:故人名または喪主名)をすべて保管する。引き出した金額と支払いの流れを第三者(税務署、家庭裁判所)が一目で確認できる状態にしておくことが求められる。

葬儀費用の立て替えや口座凍結解除の手続きで困っている方は、日本の葬儀・相続手続き完全ガイドで、仮払い申請書類のチェックリストや銀行窓口での対応方法をまとめた実務資料を参照してほしい。正確な手順を踏めば、他の相続人の同意なしに葬儀費用を確保することは十分に可能だ。

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